Blood emperor -血を統べし者 18-
Blood emperor -血を統べし者 18-
「どうもお手数をおかけします……」
「あ、いえ――お気になさらないで下さい。
元々司教様より、お客様がお見えになり次第、お連れするよう言い付かってましたから」
先を行くのは、先刻まで受付に座っていた女性聖職者。
元々、この教会を二人が訪れることは――事前に伝えられている。
二人の立場は、この教会を任されているチェザーレ大司教の客人という事になっている。
大司教とは親と子ほどの年齢の差が開いている事を考えれば、あまり接点があるようには見えないのだが――
紹介状は正規のものであったし、何より事前に大司教から直接に話を受けている。
彼女が異を挟む部分など、何一つとして無かった。
それに――
「……どうした? 俺の顔を崇めたところで、利益など与えてやれんぞ」
二人のうちの片割れは、こんな辺境の都市ではそうそうお眼にかかれないほどの美青年ときている。
“すなわち、悪魔が己が姿を光の御使いに装うは珍しきことにあらず”とは聖書の一節であるが――
「俺が与えてやれるのは、もっと即物的なものだ……神の様な、恒久的な平穏ではない。
果たしてそれで、お前は満足できるのか……?」
もし彼がそうであるなら、自ら進んで騙されたいと心から思う。
「――はいはい判りました判りましたから脇目を逸らさず真っ直ぐ歩いてくださいねヴィー」
「ぬ……ここで話の腰を折るか。愛が足りん所業だ」
「よりによって教会内で口説き始める神父がありますかっ!!」
「……あの、お二人とも。一応、大声での会話は謹んで頂けるとありがたいのですが……」
コホンと、軽く咳払い。
女性聖職者のやんわりとした釘にミルファは恐縮し――
「嘆かわしいことだな……」
――まるで他人事のように何か口走りやがった神父は、裏拳でしっかりと地に叩き沈めた。