Blood empire -血を統べし者 3-
Blood empire -血を統べし者 3-
「よりによって、顔を蹴るか。顔を」
両足が綺麗に突き刺さった辺りを擦りながら、神父は嘆かわしく呟く。
硬い靴裏は相当深々と突き刺さったはず――そして芸術的なほどに吹き飛び、建物に激突したはずなのだが。
他人事のように呟くその様子に微塵もダメージが残っていないように見えるのは気のせいなのだろうか。
「人類の至宝に歪みが生じてしまったらどうするつもりだ」
「寝言は寝てても言わないで――五月蝿いだけだから」
神父の眼差しを――なまじ顔が整っているだけに、威圧感さえ漂わせる視線。
それを、真正面から受け止めるばかりか、絶対零度の一言で叩き落し。
「それともまだ目が覚めてないんなら、もう数発叩き込んであげてもいいのよ?」
爆発寸前の信管が魅せる輝きにもにた笑顔を、にっこりと浮かべたのは――先刻神父を蹴り飛ばした女性だった。
まだ、二十歳になったかならないか――ようやく少女の域を抜け出たばかりの姿を包むのは、白い貞淑な頭布と尼僧服。
会話の様子から、この神父の知己であるのは間違いないだろうが――その関係の詳細までは判らない。
「愛が足りないな、愛が」
「忠誠心と信仰心の欠けた貴方に言われたくないわ」
「ハッハッハ」
「そこは笑うところじゃないでしょうがっ!!」
「まあ、俺だからな」
「何の理由にもなってないでしょうが! ああもう偉そうにするな開き直るなぁぁぁっ!!」
袖を捲る勢いで腕を振るい神父を締め上げ、前後に揺さぶりながら逐一突っ込みを入れる尼僧。
かなり危険な幅で振られているにも拘らず、全く余裕で不遜な態度を崩さぬ神父。
それはなんと、微笑ましい光景。
微笑ましさのあまり思わず見なかったことにして踵を返しそのまま立ち去りたくなるような――
そんな光景を、前に。
神父達とテーブルを挟んだ向こう側に座る――先刻口説かれていた女性は、非常に気まずい空気を味わう羽目になっていた。