約束。

それはきっと、ちっぽけで、何でもなくて、下らない。
まるで自己満足みたいな、小さな約束。


それでも。
出来るなら、忘れて欲しくなかった。


そう思っていたけれど。
例え彼女が忘れていても、彼女にとって他愛の無いものだったとしても。
オレは、その約束を覚えている。


覚えている限り、約束が消える事は無い。
そう思うと――心が楽になる自分に気付いた。



それに。
約束は、もう一つある。
それはとても大きく、果ての見えない約束だけれど。
その約束もまた、オレが覚えている限りは消えない。


大きな約束、誓った事。
彼女がオレに求めてくれたのは、オレがいつか到達したい自分自身でもあったから。
ならこの約束も誓いも、オレから裏切っていいものじゃない。
……いや、裏切りたくない、と言った方が良いのかもしれない。


オレは本質的にとても流されやすく、心根の弱い人間だと思う。
だから何度だって、自分を易しい方に導こうとする、諦めようとする声は自分自身のもの。
けれど、いつか彼女とまた出会った時、目を逸らしたくないから。
胸を張っていられる自分でありたいから、何があっても諦めたくない。


例え、それが傍目には報われないのだとしても。
貫き通す事が出来たなら、オレはその事をオレ自身に誇る事が出来る。
文章以外、何のとりえも無い自分に――形の無い勲章として、自分に誇る事が出来る。


だから。
何度弱音を吐くような事になったとしても。
何度誓いを疑い、約束を自分から違えようと弱い自分に走ろうとしても。


必ず、踏みとどまってみせる。
意地でも、貫き通す。


『約束』は、一人だけのものじゃないから。


それが。
彼女が、この空の続く先で。
『生きている』――あるいは。


『生きていた』証となるように。