年度末の、泉の精

今年も終焉まであと僅か。
こうしてPCに向かってキーボードを叩くオレも。
様々な創作物で取り上げられた、可能性の延長上のオレも。


等しく、大晦日を迎えてるのでしょう。


その中から。
一つ、ピックアップしてみましょう。

アル

「……確か『泉の精』って、西洋の存在じゃなかったっけ?」

泉の精

「私達にその概念が適されるかどうかはともかく……。
 人の間で『泉の精』の童話が広く語られるようになったのはイソップ寓話集からですね」

アル

「……何でお姉様、あんなに日本の年末の過ごし方に場慣れしてるんだ……?」

泉の精

「郷に入れば郷に従えというものでしょう」

アル

「いや、炬燵の中での適度なだるまり具合といい、
 年末進行のテレビを見ながら年越し蕎麦を食べる仕草といい……。
 『はしたない』という所には決してならないのがお姉様らしいといえばらしいけど、
 あれはどう見てもまるっきり現代の日本人そのもの――」

泉の精

「そうですか。随分とお姉様をよく見ててるんですね」

アル

「え!? いや、そういうわけじゃ……ちょ、ちょっと気になっただけだって!」

一人でいるには少々間取りの広い、青年の部屋。
目の前にある泉の精の冷たい眼差しに狼狽しながらも、青年は必死に話題の転換先を探す。

アル

「それより……本当、ごめん。
 みんな楽しんでるのに、場の空気乱すようなこと言ってさ」


ちらと、部屋の扉の向こうを見やる。
見えるわけではないが、その先にあるリビングで、
お姉様と妖精・少女ねことメアはそれぞれ炬燵を囲みながら、年明けまでをまったりと過ごしている。
青年も仕事が無ければ、その中に加わってのんびりと年明けまでの時間を過ごすはずだったのだが――

泉の精

「仕方ないでしょう。明日も朝早くから仕事なのですから」

アル

「まあ、そうだけどな……」

泉の精

「それでは、私も今日は失礼しますね」

納得がいかないとばかりにぼやく青年を見やりながら、
泉の精は部屋を後にしようとドアノブに手をかけて――

アル

「あ、ちょっ、ちょっと待ってくれ!」

泉の精

「……? どうかしたんですか?」

アル

「あ、いや……その。もうちょっとだけ付き合ってくれる……かな」
「構いませんが……何か大事な話なのですか?」

アル

「……ああ。すごく大事なことかな」

雰囲気を少し改めた青年の様子に、泉の精も軽く息を呑み、居住まいを正す。
彼女を真正面から見つめ、青年はゆっくりと口を開く。

アル

「……今年一年は、いいことも悪いことも含めて、本当に色々あった。
 その中で、一番大きかったのが――君と出会ったことだと思う。
 去年まで、まさかこんな大所帯を抱えることになるとは思わなかったし……」

アル

「君と、こういう関係になるとは……思いもしてなかったから」

軽く瞑目する。
そこに浮かぶのは、彼女と最初に出会った頃の事。

アル

「……あの時は、本っっっっ当に! 凹まされたよ本当に」

泉の精

「言葉に随分と怨念が漂っているように思えるのは何故ですか?」

アル

「それを素で聞くのか……まあ反面、付き合っていくうちに色々な君の姿も見れたわけだけど」

泉の精

「……え?」

アル

「下着姿に犬耳メイド服。分厚い氷をぶち破ってきた事もあったし、オレが女性化したときなんか――」

泉の精

「な、何を思い出してるんですかあなたはっ!!」



(ばしばしっ! びしぃっ!!)


アル

「痛!? 痛いというかいつの間にブースト復活してるんだ!?」

泉の精

「完全に回復したわけじゃありませんが、短時間ぐらいなら問題ありませんっ!」



(びしっ!! がすがすっ!! ばしびしばしぃっ!!)


泉の精

「……はぁ、はぁっ……大事な、話というのは……。
 私に恥ずかしい思いをさせたいということだったのですか……あなたという、人は……」

アル

「痛てて……本気で殴らなくてもいいだろ……今のは前フリだって、ここからが本題だよ」

泉の精

「あまりろくなものである気がしませんが……一応、聞くだけ聞いておきましょう」

アル

「信用無いな、オレって……こほん。……ともかく、オレが言いたかったのは」

青年はすっと、泉の精の目の前に立って――その腕の中に、彼女を抱きしめる。

アル

「……君が、ここに、こうしていてくれることが……今年一番の、幸せだなって、さ」

腕の中で驚いた泉の精の耳元に、そっと優しく青年は囁く。

アル

「ありがとう。ここにいてくれて。 ……オレに出会ってくれて。オレのことを好きになってくれて」

泉の精

「な……と、唐突に……どうしたんです、か……?」

アル

「いや……ずっと流れ流されてここまで、一度もオレからはっきり言ってなかったから。
 今年が終わるまでに、自分の口から……自分から、はっきりと言っておきたかった。
 状況としては流された上の事かもしれない。……でも、流されただけでこうなったわけじゃないって」

耳の先まで真っ赤に染めた泉の精に、微かに微笑んで。

アル

「君の事を愛してる。オレと、君の間にある……白銀の魔剣に誓って。
 それを誓うことが出来るようになった今年は、きっと……世界一、幸せだよ」



泉の精の耳朶に、そっとキスを落とす。

アル

「……来年も、一年……何が在るかわからないけど、よろしくな」

囁いて、泉の精を抱きしめていた腕を放す。

アル

「おやすみ」

真っ赤になって俯いていた泉の精は、彼のその言葉に扉の元まで歩み寄る。

アル

「……え?」

がちゃりと扉を閉める音。
後ろ手に扉を閉じて、泉の精は部屋に残ったまま――がちゃりと、扉に鍵をかけた。

泉の精

「……卑怯です、あなたは」

泉の精

「普段はあんななのに、何でこんなに優しい言葉を……くれるんですか。
 こんなに優しい言葉が言えるのに、どうして……『おやすみ』なんて送り出すんですか」

泉の精

「あなたがそこまではっきりと言ってくれたのが初めてなら、それに応えるのも初めてのはずです」

泉の精

「……今年一年を振り返って、私がどう思ったのか。
 今ここにあることをどう感じているのか……どれくらい、幸せなことなのか。
 一年が終わり、新しい一年が始まるこの間に。
 あなたには、たっぷりと知ってもらいます……いいですね?」

潤んだ瞳で、きっと見つめ返す泉の精。
そんな彼女を目の前にして、青年はおかしそうに――嬉しそうに笑うと。

アル

「よろこんで」



彼女を抱き寄せ、唇を重ねた。

本年のAlfail storyの更新はこれで以上です。
皆様、良いお年を……!!