Blood emperor -血を統べし者 16-
Blood emperor -血を統べし者 16-
予想と異なる神父の反応に、思わず惚けるミルファ。
「だが実際のところ、お前は『仮面』を被っている。
それも相当な重傷――仮面は『完璧』な上に、四六時中それを付け続けている。
――先刻、俺が口説いたあの女。あの女と接する時の仕草や言葉遣いもそうだったな。
緊張に震えるあの女の気を解すため、『生来の自分』にそっくりな『仮面』を付けて」
――胸の中を、憤りにも似た感情が突き上げる。
それを言葉にしようとして――何故か。
「お前は本来の自身で、真に人を導き――救えるだけの資質を持っている。
だが今は、そんな『生来の自身』を忠実に再現した仮面を被り、『自身を借りている』に過ぎん。
例えそれでも、人は救えるだろう。何人もの人間がその罪から解放されるだろう。
だが、模倣した自身と生来のお前は相似であっても決して同一では無い。
続ければ、その歪みは確実にその心に澱となって蓄積する」
ミルファは、彼の言葉に反駁することが出来なかった。
「もう一度だけ言う。ミルファ――お前は『若い』。
完成した自分自身、理想の『仮面』を付けて生きる『老いた』生き方はお前には似合わん。
続けていけば、お前の中に蓄積された歪みは」
――いつか、お前を追い詰めるぞ。
立ち尽くすミルファにそう告げて、黒い背中が先を行く。
美しい白亜の街並みを切り裂くようなその姿は、神父という職にありながら――
どこか孤独で、不吉なものさえ感じさせる背中。
「……貴方に」
小さく。
「……貴方に、何が判るのです……!」
ぎりりと、奥歯を噛み締める音が響いた。